特定疾病とは?
公的介護保険における16の特定疾病と診断基準について

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公的介護保険は、一般的に65歳以上の人が、介護が必要になった時に、所定の介護サービスを受けられる制度です。ただし、40~64歳の人でも、16種類の特定疾病が原因で要介護状態になった場合は、公的介護保険による介護サービスを受けることができます。

ここでは、16種類の特定疾病とその診断基準、民間の介護保険が必要となるケース等を解説します。

特定疾病とは心身の加齢と関係があると考えられる16種類の病気

公的介護保険の特定疾病とは、心身の加齢と関係があると考えられる16種類の病気のことです。これらは、3~6か月以上継続して要介護状態または要支援状態となる割合が高いと考えられる病気でもあります。
第1号被保険者である65歳以上の人は、要介護状態と認定されたら原因を問わず公的介護保険による介護サービスが受けられますが、第2号被保険者の40~64歳の人は、特定疾病をわずらって要介護認定を受けた場合に限り、公的介護保険が適用されます。

なお、民間の生命保険にも特定疾病(三大疾病)がありますが、公的介護保険における特定疾病とは区分が異なるため、注意が必要です。民間の生命保険における特定疾病(三大疾病)とは、日本人の死因の上位を占める「がん」「心疾患」「脳血管疾患」を指すことが一般的です。民間の保険会社では、これらに備える保険商品を扱っています。

三大疾病については、以下の記事をご覧ください。
三大疾病とは?保険は入るべき?罹患のリスクや加入の注意点を解説

16種類の特定疾病

公的介護保険が適用される特定疾病は、以下の16種類の病気が選定されています。それぞれの病気について、厚生労働省の見解に沿って解説します。

<16種類の特定疾病>

  1. がん(がん末期)
  2. 関節リウマチ
  3. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
  4. 後縦靱帯骨化症
  5. 骨折を伴う骨粗鬆症
  6. 初老期における認知症
  7. 進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症・パーキンソン病
  8. 脊髄小脳変性症
  9. 脊柱管狭窄症
  10. 早老症
  11. 多系統萎縮症(MSA)
  12. 糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症
  13. 脳血管疾患
  14. 閉塞性動脈硬化症
  15. 慢性閉塞性肺疾患
  16. 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

※出典:厚生労働省「介護保険最新情報」P.116~P.148
https://www.mhlw.go.jp/content/000819403.pdf

1. がん(がん末期)

特定疾病として扱われるがんは、悪性新生物であると診断され、治癒を目的とした治療に反応せず、進行性かつ治癒困難な状態にある場合に限られます。治癒困難な状態とは、概ね余命が6月間程度であると判断される場合です。抗がん剤等による治療が行われていても、症状緩和等、直接治癒を目的としていない治療の場合は、特定疾病にあてはまります。

2. 関節リウマチ

関節リウマチは、全身の関節に炎症が発生して、痛みや手足の変形等の症状が現れる病気です。朝のこわばりが1時間以上持続したり、同時に3か所以上の関節が腫れたりするといった自他覚症状と、X線等の臨床検査によって、特定疾病の診断が行われます。

3. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動神経細胞の異常によって、筋肉の萎縮や筋力低下が起きる病気です。原因は不明で、指や下肢、顔、喉等に発症し、ボタンがとめにくくなったり、つまずいたりする以外に、食べ物が飲み込みにくくなるといった初期症状があります。特定疾病と判断されるには、「成人発症である」「経過は進行性である」といった条件を満たす必要があります。

4. 後縦靱帯骨化症

後縦靱帯骨化症は、背骨の中を縦に通る後縦靱帯が骨化してしまう病気です。頚椎で発症することが多く、重症化すると歩行障害や排泄障害等の日常生活に影響が出る症状が現れます。特定疾病と判断されるには、脊椎X線像所見に加え、四肢のしびれや知覚障害、運動障害等の自覚症状と身体所見があり、それが靱帯骨化と因果関係があると認められる必要があります。

5. 骨折を伴う骨粗鬆症

骨粗鬆症は、骨がもろくなり骨折しやすくなってしまう病気です。加齢等による骨量の減少や、栄養不足、運動不足等が原因で、腰が曲がったり身長が縮んだりして、転倒しただけでも骨折することがあります。骨粗鬆症は骨量の低下による骨折が認められた場合に、特定疾病として扱われます。

6. 初老期における認知症

認知症とは、認知機能の低下による記憶障害や失語等の症状があり、社会生活・日常生活に支障をきたしている状態を指します。加齢による脳細胞の活動低下が主な原因で、初老期(40~64歳)における認知症は特定疾病に該当します。代表的な認知症には、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症、レビー小体型認知症がありますが、頭部外傷等の外傷性疾患やアルコール等の中毒性疾患、甲状腺機能低下症等の内分泌疾患、ビタミンB12欠乏症等の栄養障害による症状は該当しません。

7. 進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症・パーキンソン病

進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症・パーキンソン病は、静止している時のふるえや筋肉のこわばり等の症状が現れる病気です。進行性核上性麻痺は眼球の障害によって下のほうが見づらくなる症状があり、大脳皮質基底核変性症は筋肉がこわばって左右どちらかの動きがぎこちなくなるという症状等が現れます。パーキンソン病は、静止時のふるえや緩慢な動作、姿勢障害等が特徴的です。

原因は不明ですが、薬による治療効果は高いとされています。特定疾病の診断には、ゆっくりとした病気の進行や日常の動作をうまく行えない状態(失行)等の条件を満たす必要があります。

8. 脊髄小脳変性症

脊髄小脳変性症は、小脳の障害によって起きる病気で、脳から筋肉に指令が送れなくなり、思うように体が動かせなくなってしまう病気です。約30%が遺伝によるものとされていますが、原因ははっきりわかっていません。歩行時にふらついたり、ろれつが回らなかったりする症状が現れ、進行すると寝たきりになります。特定疾病の診断は、専門医が症状等から総合的に行います。

9. 脊柱管狭窄症

脊柱管狭窄症は、脊椎の中の脊柱管が狭くなってしまい、神経を圧迫し、痛みやしびれが発生する病気です。主な原因としては、加齢によって背骨、椎間板、靭帯が変形することが挙げられます。歩行中に腰や足に痛み、しびれが生じ、休むと一時的に回復する間歇性跛行が特徴的な症状です。筋力低下や排尿・排便障害も伴う場合があります。

なお、脊柱管狭窄症と診断されるには、頚椎、胸椎、腰椎のいずれかひとつ以上で脊柱管が狭小化し、狭窄と症状との因果関係が認められる必要があります。

10. 早老症

早老症は、遺伝子の異常によって引き起こされ、実年齢よりも早く老化が全身に現れる病気です。主な原因は遺伝子の異常によるものとされていますが、発症メカニズムはまだ解明されていません。20代からの若い年齢で症状が始まり、若年性白内障や白髪、脱毛、骨粗鬆症等の老化現象が顕著に現れます。

ウェルナー症候群、プロジェリア症候群、コケイン症候群に該当した上で、主な症状や関連する疾患の徴候、所見が認められれば特定疾病となります。

11. 多系統萎縮症(MSA)

多系統萎縮症(MSA)は、排尿障害や筋肉のこわばり、ふるえの他、ろれつが回らなかったり、字が書けなくなったりする症状が複合的に現れる病気です。原因は明らかになっていませんが、多くは40歳以降に発症します。多系統萎縮症は、主要な症状により以下の3つに分類されます。

<多系統萎縮症(MSA)の主な症状>

  • オリーブ橋小脳萎縮症:早期から小脳等の萎縮が認められ、運動失調や排尿障害、起立性低血圧等の症状が現れる
  • 線条体黒質変性症:パーキンソン病に似た症状で発症し、筋肉が収縮したり、動かなくなったりする
  • シャイ・ドレーガー症候群:発症後1年間にわたって起立性低血圧、排尿障害等を中心とした自律神経症状が現れる

これらの症状が個人によって異なる程度で組み合わさり、その症状や神経機能検査等に基づいて、特定疾病と診断されます。

12. 糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症

糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症は、糖尿病の三大合併症と呼ばれる病気です。これらは糖尿病の診断基準を満たした上で、糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症の各疾病に関する状態に該当すれば特定疾病として扱われます。それぞれの主な症状は以下のとおりです。

<糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症・糖尿病性網膜症の主な症状>

  • 糖尿病性神経障害:感覚神経、運動神経、自律神経の損傷から、手足のしびれ、痛み、立ちくらみ等の症状が現れる
  • 糖尿病性腎症:腎臓の機能低下を引き起こし、初期段階では特に自覚症状はないものの、進行するとむくみ、息切れ、食欲不振、吐き気や嘔吐、筋肉のこわばり等が現れる
  • 糖尿病性網膜症:網膜の血管の損傷により眼底出血を起こし、進行すると飛蚊症や視野の欠損が生じる

13. 脳血管疾患

脳血管疾患は、脳梗塞やくも膜下出血等、脳の血管の異常によって起こる疾患です。主な原因は、高血圧や生活習慣病が挙げられ、外傷による脳血管疾患は特定疾病と認められません。

高血圧や生活習慣病によって脳血管の閉塞や破裂を引き起こし、脳組織への血液供給が不足することにより、部位や範囲により異なる症状が出現します。症状としては、手足や顔の片側の麻痺やしびれ、記憶障害、言語障害、注意障害等の高次機能障害が現れることが特徴的です。

14. 閉塞性動脈硬化症

閉塞性動脈硬化症は、動脈硬化によって血流が悪くなり、血管が細くなったり、詰まったりする疾患です。原因として挙げられるのは、生活習慣病、特に肥満、高血圧、喫煙です。症状は足の冷感、しびれ、痛み等で、進行すると安静時でも痛みが生じ、最悪のケースでは足の潰瘍や壊死が発生し、切断が必要になります。

特定疾病として診断されるには、動脈硬化の特徴的な症状である安静時の痛み、潰瘍、壊死等の症状だけではなく、画像検査で血管の状態を確認する場合があります。

15. 慢性閉塞性肺疾患

慢性閉塞性肺疾患は、慢性気管支炎や肺気腫、気管支喘息、びまん性汎細気管支炎等の肺の働きが低下する病気の総称です。喫煙習慣があると発症リスクが高まるとされますが、大気汚染物質等が原因となることもあり、息切れや咳、痰が長く続いたり、喘息のような症状が現れたりします。息を吐き出す速度が低下する気流閉塞が確認されると、特定疾病として診断されます。

16. 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

変形性関節症は、両側の膝関節や股関節が変形することで、痛みや腫れ等の症状が現れる病気です。原因は、関節の軟骨の摩耗や股関節の形成不全、さらにはケガによる炎症等で、初期段階では少し休むと痛みは和らぎますが、進行すると日常生活の動作も困難になってしまいます。膝や股関節の変形が認められ、著しい痛みや機能の低下があれば、特定疾病として診断されます。

特定疾病になったらどうすればいい?

特定疾病と診断されたら、公的介護保険の要介護認定を受けましょう。公的介護保険が適用されるのは、原則として65歳以上の第1号被保険者ですが、特定疾病により要介護状態になった場合は、例外として40~64歳の第2号被保険者も介護サービスが利用できます。

ここからは、公的介護保険の介護サービスを利用するための手順について紹介します。

■公的介護保険の介護サービスを利用するための手順

公的介護保険の介護サービスを利用するための手順

1. 要介護認定を申請する

公的介護保険の介護サービスの利用を希望する場合、各自治体の窓口で要介護認定の申請が必要です。申請後、各自治体の認定調査員が自宅や施設を訪問し、心身の状況について調査を行います。また、各自治体から主治医(かかりつけ医)に意見書の作成を依頼します。

2. 要介護認定の結果を受取る

要介護認定を申請したら、原則、申請から30日以内に各自治体から認定結果が通知されます。介護認定の判定は、一次判定と二次判定の2段階に分かれており、一次判定では全国一律の基準で判定が行われます。一次判定は、各自治体による認定調査の結果と医師の意見書を基にしたコンピューターでの判定となるため、必ずしも実情に合った判定結果が出るとは限りません。二次判定では、各自治体の介護認定審査会が一次判定の結果を基に、本人を取り巻く状況等も含めてどれくらいの介護が必要かを判定します。

なお、特定疾病に該当するか否かは、主治医意見書の記載内容に基づいて、介護認定審査会が確認を行います。

3. ケアプランを作成する

介護サービスを利用するにはケアプランが必要です。ケアプランを作成するのは、要介護1~5と認定された場合はケアマネジャー、要支援1~2の場合は地域包括支援センターです。ケアプランは、本人と家族の希望を考慮しながら、心身の状態や要介護度に合わせて作成されます。

4. 介護サービス事業者を選択する

実際に利用する介護サービス事業者を選択し、「介護保険被保険者証」と「介護保険負担割合証」を提示して、ケアプランに基づいた介護サービスを利用します。

民間の介護保険が必要となるケース

公的介護保険では、40~64歳の人の場合、16種類の特定疾病による介護の場合のみ、介護サービスが受けられます。つまり、40~64歳の人の場合、交通事故等の特定疾病以外の原因で介護が必要となったとしても、介護サービスは受けられません。また、公的介護保険は介護サービスそのものが給付される現物給付が主です。介護のためのリフォームや介護用品の購入等の費用が発生した場合、家計の負担になってしまう場合もあります。

このような事態に備えるのが、民間の介護保険です。民間の介護保険の給付条件は保険商品によって異なります。民間の介護保険の場合は、給付条件を満たせば保険金を受取ることができるため、介護にかかる費用等をカバーすることが可能です。

民間の介護保険の必要性については、以下の記事をご覧ください。
民間の介護保険の必要性やメリット・デメリット、選び方を徹底解説

民間の介護保険を検討しよう

40~64歳の人は、16種類の特定疾病が原因で要介護状態と認定された場合のみ、公的介護保険の介護サービスを受けることが可能です。一方で、交通事故等で介護が必要となってしまった場合、公的介護保険は利用できません。

しかし民間の介護保険であれば、さまざまな給付条件の保険商品があり、公的介護保険による介護サービスの対象外の病気やケガ等で介護が必要となった場合にも備えることが可能です。「ほけんの窓口」では、保険のプランに関する質問や見積もり等が、何度でも無料で相談できます。自分に合った介護保険を検討したい場合は、ぜひ「ほけんの窓口」へご相談ください。

特定疾病についてよくある質問

特定疾病について、よく聞かれる疑問をまとめました。それぞれの質問について解説していますので、参考にしてください。

特定疾病とは何ですか?
公的介護保険の特定疾病とは、心身の加齢と関係があると考えられる16種類の病気のことです。3~6か月以上継続して要介護状態または要支援状態となる割合が高いと考えられる病気でもあります。なお、公的介護保険の特定疾病に該当するか否かは、主治医意見書の記載内容に基づいて、介護認定審査会が確認を行います。
特定疾病になったらどうすればいいですか?
特定疾病と診断されたら、公的介護保険の要介護認定を受けましょう。通常、公的介護保険による介護サービスは、要介護認定を受けた65歳以上の第1号被保険者が対象となります。しかし、40~64歳の第2号被保険者であっても、特定疾病をわずらって要介護認定を受けた場合は、公的介護保険が適用になります。
公的介護保険の介護サービスを受けるためには何をしたらいいですか?
公的介護保険の介護サービスの利用を希望する場合、まず、各自治体の窓口で「要介護認定」の申請が必要です。要介護認定を申請後、原則、30日以内に各自治体から認定結果が届きます。次に、介護の必要性に合わせたケアプランを作成し、実際に利用する介護サービス事業者を選択すれば、介護サービスが利用できます。
民間の介護保険へはどのような人が加入するのですか?
民間の介護保険は、公的介護保険ではカバーできないリスクに備えたいと考える人に向いています。40~64歳の人の場合、特定疾病以外の原因で介護が必要となっても、公的介護保険の介護サービスは受けられません。また、公的介護保険は主に介護サービスそのものが給付されるため、介護費用がかさむと家計の負担になるケースもあるでしょう。民間の介護保険は、受給条件を満たせば保険金を受取ることができます。

監修者プロフィール

古賀 昭義
医療法人社団永生会 クリニックグリーングラス整形外科所属、医学博士、日本整形外科学会認定専門医、日本抗加齢医学会認定専門医

日本大学医学部卒業後、同大学整形外科に入局し、同大学医局長、医療法人社団トーイシン会市谷八幡クリニック院長を経て現職に至る。日本大学整形外科の兼任講師、臨床准教授を歴任。著書に「健康長寿の人がやっている骨にいいこと」(自由国民社)、「院長はなぜ、始発から2番目の電車で出勤するのか?」(ライトワーカー)、「身長が2センチ縮んだら読む本 胸郭ストレッチで腰曲がりを予防・改善!」(秀和システム)がある。

古賀 昭義

黒川 一美
日本FP協会 AFP認定者/2級ファイナンシャル・プランニング技能士

大学院修了後、IT企業や通信事業者のセールスエンジニア兼企画職として働く。出産を機に退職し、自分に合ったお金との向き合い方を見つけるため、FP資格を取得。現在は3人の子育てをしながら、多角的な視点からアドバイスができるFPを目指して活動中。FPサテライト株式会社所属FP。

黒川 一美
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