自転車保険の加入義務化とは？
入らない時の罰則は？対象地域等も解説

自転車保険への加入が義務化された理由

自転車保険とは、自転車事故による運転者のケガや相手への賠償に備えるための保険です。近年では、自転車保険への加入を義務化、または努力義務化する自治体が増えています。自転車保険への加入義務化が進む背景には、どのような理由があるのか見ていきましょう。

自転車関与事故の件数が増えている

自転車関与事故の発生件数は、年々増加傾向にあります。下の図は、警視庁がホームページで公表している東京都の交通事故全体に占める、自転車が関与している事故の割合の推移です。自転車関与事故の割合が年々増えており、2023年には交通事故全体において46.3％に達していることがわかります。

このように自転車関与事故の割合が増えるなか、自転車事故のリスクに備える自転車保険の必要性が重視されるようになりました。

■東京都の交通事故における自転車関与率の推移

※出典:「交通事故全体に占める自転車関与事故の推移」（警視庁ホームページ）
（https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/about_mpd/jokyo_tokei/tokei_jokyo/bicycle.html）を基に作成

重大な事故や死亡事故が毎年起きている

自転車による重大事故のニュースを見聞きしたことのある人は多いかもしれません。自転車は免許がなくても運転でき、子どもから高齢者まで多くの人が手軽に利用できる乗り物です。しかし、自転車は道路交通法では、軽車両に位置付けられている「車」の一種です。事故を起こした時には道路交通法上の交通事故に該当し、被害者に対して高額な賠償責任が発生する可能性もあります。

実際に、自転車の事故によって被害者が重大なケガを負うこともあり、最悪の場合は死亡というケースも見られます。以下の表は、自転車事故で高額な賠償金の支払いが命じられた例です。

■自転車での加害事故で高額な賠償金が発生した例

※判決認容額とは、上記裁判における判決文で加害者が支払いを命じられた金額です（金額は概算額）。上記裁判後の上訴等により、加害者が実際に支払う金額とは異なる可能性があります。
※出典：一般社団法人日本損害保険協会「自転車での加害事故例」
https://www.sonpo.or.jp/

自転車保険への加入が義務化されている自治体

自転車保険に未加入で重大事故を起こした場合、加害者であれば高額な損害賠償責任を負い、被害者であれば十分な補償を受けられない可能性が考えられます。このように、加害者と被害者の双方が経済的に困る事態を防ぐため、自転車保険への加入義務化が広がっているのです。

2015年10月に初めて、兵庫県で自転車損害賠償保険等への加入義務化の条例改正が行われ、以来、多くの自治体で自転車保険の義務化が進められてきました。2024年8月の時点においては、32都府県で自転車保険への加入を義務化、10道県で努力義務化する条例が制定されていて、2024年10月からは加入義務化の開始を予定している県が2県あります。国からも、都道府県に対して、条例等による自転車保険への加入義務化を推進しており、対応を行う自治体が年々増えています。

自転車保険が加入義務化、または努力義務化されている自治体は以下の図のとおりです。

■自治体の自転車保険加入の義務化に関する条例の制定状況（2024年8月現在）

※出典：国土交通省「自転車損害賠償責任保険等への加入促進」
https://www.mlit.go.jp/road/bicycleuse/promotion/pdf/situation.pdf
※出典：岡山県「岡山県自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」
https://www.pref.okayama.jp/page/904174.html
※出典：山口県「山口県自転車の安全で適正な利用促進条例」
https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/35/249209.html

自転車保険に未加入の場合の罰則は？

自転車保険への加入が義務化されている自治体では、保険に未加入で自転車を運転することは条例違反にあたります。ただし、条例違反に対するペナルティは、現在のところ定められていません。

とはいえ、もし自転車保険に未加入の状態で自転車事故を起こしてしまい、物を壊したり他人を死傷させてしまったりした場合、支払う賠償金はすべて自己負担となります。たとえ自転車を運転していたのが子どもや高齢者であっても、責任能力があれば賠償責任が発生するでしょう。また、自転車事故の加害者が未成年で、その保護者に監督義務違反があり、事故との間に因果関係が認められる場合は、保護者が賠償責任を負うとされています。

万が一、自転車によって重大事故を起こし、高額な賠償金が発生した場合、本人や被害者はもちろん、家族の人生にも大きな影響を及ぼします。賠償額が数十万円や数百万円、時には数千万円にも上る可能性があり、加害者にとっては大きな経済的負担となるでしょう。また、賠償金を支払えないと、被害者は十分な補償を受けられないということになってしまいます。そのような事態を防ぐためにも、自転車保険でリスクに備えることが大切です。

自転車保険への加入義務や努力義務への違反に対する罰則は、自治体によっては今後強化される可能性もあります。加害者と被害者の双方を守るためにも、もしもの場合に備えて自動車保険に加入するようにしましょう。

自転車保険の入り方については、以下の記事をご覧ください。
自転車保険の入り方とは？どこで入る？加入方法や保険の選び方を解説

自治体の条例で加入が義務付けられている自転車保険の内容

自転車保険の内容は、自転車事故による相手への賠償と、自分自身のケガの補償に大別されます。このうち自治体の条例で加入が義務付けられているのは、自転車の利用時に他人にケガを負わせた場合等の賠償保険です。加入が義務付けられている自転車保険について、詳しく見ていきましょう。

他の人にケガを負わせた場合に補償できる保険

自転車保険への加入義務とは、「自転車保険という名前のつく保険に入らなければならない」ということではありません。自転車事故で相手にケガをさせたり、他人の物を壊したりした際の損害賠償に対応できる「個人賠償責任保険」に加入していれば、自転車保険の役割は果たしているといえます。

個人賠償責任保険のなかには、自動車保険や火災保険、傷害保険の特約、クレジットカードの付帯保険等で加入できるものもあります。また、自転車店で有料の点検整備を受けた際に貼られる、TSマークに付く「TSマーク付帯保険」も対象です。TSマークとは、自転車安全整備士が点検・確認した安全な自転車に貼られるシールで、点検日から1年以内のTSマークが貼られた自転車による事故で他人を死傷させた場合、法律上の賠償責任が限度額まで補償されます（TSマークは緑・赤・青色があり、色によって補償範囲と補償限度額が変わります）。

自分は自転車保険に未加入だと思っていても、実はすでに加入している可能性があります。まずは、現在契約している保険やクレジットカードの付帯サービス、自転車のTSマークの有無等を確認してみましょう。

TSマークについては、以下の記事をご覧ください。
TSマークとは？料金や付帯保険の内容、自転車保険との違いを解説

一般的な自転車保険

個人賠償責任保険に加入すれば、自転車保険の役割は果たしていることになりますが、それだけでは自分自身がケガをした時の補償が受けられません。そのため、一般的な自転車保険では、事故相手に対する損害賠償と、運転者のケガ等に備える傷害補償がセットになっています。

自転車事故による高額賠償が発生するリスクに備えて、個人賠償責任保険の補償金額は1億円以上に設定するのが望ましいでしょう。自分の他にも自転車を運転する家族がいるなら、その全員が補償の対象になっているか確認することも大切です。

自転車保険への加入義務を知って適切な保険を選ぼう

交通事故全体に占める自転車事故の割合は年々増加しています。自転車に乗る人であれば、年齢や利用頻度にかかわらず、自転車事故を起こす可能性があるでしょう。自転車事故で加害者になってしまうと、高額な賠償責任が発生する可能性があるため、多くの地域で自転車保険への加入の義務化が進んでいます。運転をする人は自転車も車の一種だという意識を持ち、万が一に備えて自転車保険に加入しておく必要があります。

自転車保険に加入する際には、自分や家族にとって必要な補償内容が含まれている保険を選ぶことが大切です。「自転車保険の内容が知りたい」という場合は、保険の専門家に相談するのがおすすめです。「ほけんの窓口」では、保険のプランに関する質問や見積もり等が、何度でも無料で相談できます。自転車保険の内容を検討したい場合は、ぜひ「ほけんの窓口」へご相談ください。

※特約の名称や補償内容は保険会社ごとに異なります。
※当ページでは自転車保険に関する一般的な内容を記載しています。個別の保険商品等の詳細については保険会社および取扱代理店までお問い合わせください。

自転車保険への加入の義務化についてよくある質問

自転車保険への加入の義務化について、よく聞かれる疑問をまとめました。それぞれの質問について解説していますので、参考にしてください。

自治体の条例で自転車保険が義務化されたのはなぜですか？

自治体の条例で自転車保険への加入が義務化されるようになったのは、自転車関与事故の発生件数が年々増加傾向にあるためです。自転車の事故によって、被害者が重大なケガを負ったり、最悪の場合は死亡したりというケースも見られます。自転車事故は道路交通法上の交通事故に該当し、被害者に対して高額な賠償責任が発生する可能性があります。このような背景から、自転車事故のリスクに備える自転車保険の必要性が重視されるようになりました。

自転車保険への加入が義務化されている自治体はどこですか？

2024年8月時点で自転車保険への加入が義務化されているのは、宮城県、秋田県、山形県、福島県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、新潟県、静岡県、岐阜県、愛知県、三重県、石川県、福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、広島県、香川県、愛媛県、福岡県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県の32都府県で、2024年10月から義務化予定の県は、岡山県と山口県です。その他、10道県で努力義務化する条例が制定されています。自転車保険への加入が義務化されている自治体は年々増えていますので、最新の情報は自治体のウェブサイト等で確認しましょう。

自転車保険に未加入の場合の罰則はありますか？

自転車保険への加入が義務化・努力義務化されていても、未加入の場合の罰則は定められていません。しかし、もし自転車保険に未加入の状態で自転車事故を起こしてしまい、物を壊したり他人を死傷させたりした場合、支払う賠償金はすべて自己負担となります。重大事故によって高額賠償が発生する可能性もあるため、自転車保険でリスクに備えることが大切です。

自治体で加入義務の条例が制定されている自転車保険はどのような内容ですか？

自治体で加入義務の条例が制定されている自転車保険の内容は、自転車の利用時において、他人にケガを負わせた場合等に賠償できる保険となっています。一般的な自転車保険の他、自転車事故で相手にケガをさせたり、他人の物を壊したりした際の損害賠償に対応できる「個人賠償責任保険」も該当します。また、自転車店で有料の点検整備を受けた際に貼られるTSマークに付く「TSマーク付帯保険」も対象となるため、自分がいずれかの保険に加入しているか、一度確認をしてみましょう。

監修者プロフィール

黒川　一美

日本FP協会　AFP認定者／2級ファイナンシャル・プランニング技能士

大学院修了後、IT企業や通信事業者のセールスエンジニア兼企画職として働く。出産を機に退職し、自分に合ったお金との向き合い方を見つけるため、FP資格を取得。現在は3人の子育てをしながら、多角的な視点からアドバイスができるFPを目指して活動中。FPサテライト株式会社所属FP。

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