個人賠償責任保険とは?自転車事故や日常生活のトラブルを補償
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日常生活のなかでは、思わぬことで他人に損害を与え、損害賠償責任を負うケースがあります。そのような事態に備えるための保険が、個人賠償責任保険です。近年では、自転車事故で高額な損害賠償請求が生じる事例等もあり、個人賠償責任保険への加入を検討している人もいるかもしれません。個人賠償責任保険に加入する際には、その内容や補償範囲を正しく理解しておく必要があります。
ここでは、個人賠償責任保険の補償内容や加入方法、加入する際のポイント等を解説します。
この記事のポイント
- 個人賠償責任保険は、日常生活における偶発的な事故で他人に損害を与え、損害賠償責任が生じた場合に補償が受けられる
- 個人賠償責任保険の補償対象は、加入者の配偶者や同居の親族等も含まれることが一般的
- 個人賠償責任保険は、自転車を利用することが多い人、子どもがいる人、ペットがいる人におすすめ
- 保険を見直す際は、気づかずに補償がなくならないように注意が必要
個人賠償責任保険とは他人に与えた損害を補償する保険
個人賠償責任保険は、日常生活で誤って他人にケガをさせたり他人の物を壊したりして、法律上の損害賠償責任を負った際に補償が受けられる保険です。「自転車で走行中に他人にぶつかってケガをさせてしまった」「買い物中に店の商品を壊してしまった」等、日常生活における偶発的な事故で他人に損害を与え、損害賠償責任が生じた場合に補償が受けられます。
個人賠償責任保険として単体の保険商品はほとんどなく、火災保険や傷害保険、自動車保険等の特約として加入することが一般的です。
まずは、個人賠償責任保険の必要性や補償対象について確認しておきましょう。
個人賠償責任保険の必要性
「日常生活のなかで実際に損害賠償金を請求されることはないのでは?」と考える人は多いかもしれません。しかし近年では、日常のトラブルでも高額な損害賠償金を請求されるケースが発生しています。
もし個人賠償責任保険に加入していなければ、自転車事故等で他人を死傷させたり物を壊したりした場合、支払賠償金はすべて自己負担となり、家計に大きなダメージを与えかねません。
自転車事故での加害事故例として、以下のように1億円近い高額な賠償金の支払いが命じられたケースもあります。たとえ自転車の運転者が未成年の子どもであっても、賠償責任は生じます。
■自転車での加害事故例
判決認容額※ | 事故の概要 |
---|---|
9,521万円 | 男子小学生(11歳)が夜間、帰宅途中に自転車で走行中、歩道と車道の区別のない道路において歩行中の女性(62歳)と正面衝突。女性は頭蓋骨骨折等の傷害を負い、意識が戻らない状態となった(神戸地方裁判所、2013年7月4日判決)。 |
9,330万円 | 男子高校生が夜間、イヤホンで音楽を聞きながら無灯火で自転車を運転中に、パトカーの追跡を受けて逃走し、職務質問中の警察官(25歳)と衝突。警察官は、頭蓋骨骨折等で約2か月後に死亡した(高松高等裁判所、2020年7月22日判決)。 |
9,266万円 | 男子高校生が昼間、自転車横断帯のかなり手前の歩道から車道を斜めに横断し、対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(24歳)と衝突。男性会社員に重大な障害(言語機能の喪失等)が残った(東京地方裁判所、2008年6月5日判決)。 |
- ※判決認容額とは、上記裁判における判決文で加害者が支払いを命じられた金額です(金額は概算額)。上記裁判後の上訴等により、加害者が実際に支払う金額とは異なる可能性があります。
- ※出典:「自転車での加害事故例」(一般社団法人日本損害保険協会)(https://www.sonpo.or.jp/)
補償対象となる人の範囲
個人賠償責任保険の補償対象になるのは、加入者(記名被保険者)本人だけでなく、配偶者や同居の親族等も含まれることが一般的です。例えば、以下に該当する人が補償の対象となります。
<個人賠償責任保険の補償対象となる人の例>
- 記名被保険者(保険申込書、明細書、加入申込票の被保険者欄に記載の本人)
- 記名被保険者の配偶者
- 記名被保険者またはその配偶者の同居の親族※1
- 記名被保険者またはその配偶者の別居の未婚の子※2
- 上記1から4のいずれかの人が責任無能力者の場合、その人に関する事故についてはその人の親権者、その他の法定監督義務者および監督義務者に代わって責任無能力者を監督する親族
- ※1記名被保険者または配偶者の6親等内の血族および3親等内の姻族を指します。
- ※2これまでに婚姻歴がないことをいいます。
配偶者や未婚の子どもは同居か別居かにかかわらず補償対象ですが、その他の親族については、記名被保険者または配偶者と同居していなければ補償は受けられません。また、既婚の子どもは記名被保険者と同居していれば補償の対象になりますが、別居なら対象外です。
なお、保険会社や保険商品によっては、補償対象者の範囲が異なる場合があります。
個人賠償責任保険で補償されるケース
個人賠償責任保険で補償されるのは、「日常生活に起因する偶然な事故」または「住宅の所有、使用または管理に起因する偶然な事故」によって他人に損害を与え、法律上の損害賠償責任を負った場合です。個人賠償責任保険で補償されるケースとしては、以下のような例が挙げられます。
<個人賠償責任保険で補償対象になる例>
- 子どもが他人の物や店の商品を壊した
- 飼い犬が他人を噛んでケガをさせた
- 自転車の走行中に他人にぶつかってケガをさせた
- 洗濯機の水漏れでマンションの下の部屋の家財に損害を与えた
- 野球をしていて打ったボールが通行人にあたり、ケガをさせた
個人賠償責任保険で補償されないケース
個人賠償責任保険で補償されないケースについても見ていきましょう。
「被保険者が所有・使用・管理する物への損害」「職務遂行に直接起因する損害」「車の所有・使用・管理に起因する損害」「故意の事故」「名誉毀損やプライバシーの侵害等の無形財産が対象」の場合、個人賠償責任保険では補償されません。
補償対象外となる事故の具体例は、以下のとおりです。
<個人賠償責任保険で補償対象にならない例>
- 自宅のリビングで子どもが走って祖母にぶつかりケガをさせた
- 友人から借りていたカメラを壊した
- 飲食店でのアルバイト中にお客さまの服を汚した
- 駐車場に車を停めて降りる時に、隣の車にドアがぶつかり傷をつけた
- 故意の暴力によって他人にケガをさせた
個人賠償責任保険への加入方法
個人賠償責任保険は、主に3つの加入方法があります。単独の保険商品に加入する方法、火災保険や傷害保険、自動車保険等の特約として加入する方法、クレジットカードの付帯保険に加入する方法です。
ただし、個人賠償責任保険の単体の保険商品はほとんどなく、他の保険の特約として契約することが一般的でしょう。特約の名称は「個人賠償責任補償特約」、「日常生活賠償特約」等、保険商品によって異なります。
すでに契約している保険で個人賠償責任保険の補償内容が十分カバーできているのであれば、新たに個人賠償責任保険に加入する必要性は低いといえます。個人賠償責任保険の保険金は賠償額までしか受取れません。重複加入していても、複数の保険から設定した保険金が全額受取れるわけではないのです。
個人賠償責任保険に加入する際には、現在契約中の保険の内容やクレジットカードの付帯保険についてあらためて確認し、新規加入が必要かどうかを検討することをおすすめします。
個人賠償責任保険への加入がおすすめな人
個人賠償責任保険への加入がおすすめなのは、自転車の利用が多い人や、子どもがいる人、ペットを飼っている人等です。具体的な理由とともに詳しく見ていきましょう。
自転車の利用が多い人
個人賠償責任保険への加入は、自転車の利用が多い人におすすめです。自転車関与事故の発生件数は、年々増加傾向です。また、自転車での事故が高額賠償につながるケースもあることから、近年では多くの自治体で自転車保険の加入が義務化または努力義務化されています。
もっとも、自治体が加入を義務付けている保険は、「自転車保険」という名称の保険である必要はありません。「個人賠償責任保険」に加入していれば加入義務を満たすことができます。
自転車事故を起こしてしまうと、道路交通法上の交通事故に該当します。場合によっては、被害者に対して高額な賠償責任が発生するかもしれません。事故を起こしたのが子どもなら、保護者が賠償責任を負うことになるでしょう。こうしたリスクをカバーできるのが、個人賠償責任保険です。
自転車保険の義務化については、以下の記事をご覧ください。
自転車保険の加入義務化とは?入らない時の罰則は?対象地域等も解説
自転車保険の入り方については、以下の記事をご覧ください。
自転車保険の入り方とは?どこで入る?加入方法や保険の選び方を解説
子どもがいる人
個人賠償責任保険は、子どもがいる人にもおすすめです。特に、活動範囲が広がってきた年齢の子どもがいる場合、「物を壊した」「友人にケガをさせた」等のトラブルが起こりがちです。小さな子どもが起こした事故については、その保護者に監督義務違反があり、事故との間に因果関係が認められる場合は、保護者が賠償責任を負うとされています。
こうした賠償責任のリスクに備えるなら、個人賠償責任保険への加入を検討することをおすすめします。個人賠償責任保険は、加入者(記名被保険者)本人や同居家族の他、未婚の子どもであれば別居していても補償対象となることが一般的です。子どもが成長して同居していなくても、これまでに婚姻歴がなければ補償の対象になります。
ペットを飼っている人
犬等のペットを飼っている人にも、個人賠償責任保険の加入がおすすめです。噛みつく、引っかく等、ペットによる他人への損害については、基本的に飼い主が賠償責任を負わなければなりません。
ペットによる事故は、思いもよらないタイミングで発生することがあります。例えば、散歩中に犬が他人に噛みついたり、急に飛び出して自転車にぶつかり転倒させてしまったりすることがあるかもしれません。個人賠償責任保険に加入することで、飼い主自身も安心してペットと過ごすことができるでしょう。
個人賠償責任保険を検討する際のポイント
個人賠償責任保険を検討する場合は、確認しておきたいいくつかのポイントがあります。個人賠償責任保険への加入や見直しをする際のポイントは以下のとおりです。
重複加入を確認する
個人賠償責任保険への加入を検討する際には、他の保険と補償が重複していないかを必ず確認しましょう。個人賠償責任保険は、単体の保険商品の他、火災保険や傷害保険、自動車保険等の特約や、クレジットカードの付帯保険といった複数の加入方法があります。重複して加入していても、保険金は賠償額までしか受取れないため、保険料を余分に払込むことになってしまいます。
個人賠償責任保険はひとつの保険で家族全員が補償を受けられるため、自分だけではなく家族が加入している保険も含め、補償内容が重複していないことを確認してください。
重複している場合は、手厚い補償内容の保険のみを残して他を解約すれば、保険料が無駄になりません。どの保険をのこすべきか迷う場合は、保険の専門家に相談することをおすすめします。
示談交渉サービスを確認する
個人賠償責任保険への加入を検討する際には、示談交渉サービスについて確認することが大切です。
示談交渉サービスとは、事故等で法律上の損害賠償責任が発生した時に、保険会社が本人に代わって相手と交渉してくれるサービスのことです。自分で交渉を行うと、労力や時間が大きくかかる上、相手と話がまとまらずに長引く可能性もあります。個人賠償責任保険に示談交渉サービスがついていれば、保険会社が交渉を代行してくれるため、過失割合や賠償額、支払方法といった取り決めをスムーズに進めることができるでしょう。
ただし、示談交渉サービスはすべての個人賠償責任保険についているわけではなく、利用できる条件も保険会社によって異なります。例えば、被保険者と被害者が示談交渉サービスの利用に同意していない場合や、海外での事故の場合等には、基本的には適用されません。
そのため、個人賠償責任保険への加入を検討する際には、示談交渉サービスの有無だけではなく、利用条件についても確認しておくことをおすすめします。
気づかずに補償がなくならないように注意する
個人賠償責任補償の特約をセットした保険を見直す際は、気づかずに補償がなくならないように注意が必要です。火災保険や傷害保険、自動車保険等の特約の他、クレジットカードの付帯保険として個人賠償責任保険に加入している場合も注意しましょう。
特約は主契約のオプションであることから、主契約を解約すれば特約も自動的に解約となります。クレジットカードの付帯保険においても同様です。保険の乗り換えや解約を検討する際は、オプションの補償についても意識しておかないと、「知らぬ間に個人賠償責任保険の補償がなくなっていた」という事態が起こりえます。そのため、どの保険の特約に個人賠償責任補償がセットされているのかをしっかりと把握しておくことが重要です。
補償がない状態で事故が発生し、高額な損害賠償請求を受けてしまうと、全額を自己負担で対応しなければなりません。このような事態を防ぐためには、乗り換えや解約時に、別の保険で個人賠償責任保険に加入する必要があります。その際は、補償が途切れないよう注意してください。
自分や家族のために個人賠償責任保険への加入を検討しよう
どのような人でも、日常生活のなかで他人に損害を与えるリスクをゼロにすることはできません。特に近年では、自転車での事故が高額賠償請求になるケースも発生しています。小さな子どもがいる場合は、子どもが物を壊してしまったり、人をケガさせてしまったりする可能性もあるでしょう。このようなリスクに備えられるのが、個人賠償責任保険です。
個人賠償責任保険は、火災保険や傷害保険、自動車保険等の特約、もしくはクレジットカードの付帯保険として加入することが一般的です。そのため、補償が重複しやすいことに注意が必要です。気づかぬうちに必要以上の保険料を払込んでいるかもしれません。
個人賠償責任保険に関する相談や疑問がある場合は、保険の専門家に相談するのがおすすめです。「ほけんの窓口」では、個人賠償責任保険に関する質問や見積もり等が、何度でも無料で相談できます。個人賠償責任保険の加入や見直しを検討している場合は、ぜひ「ほけんの窓口」へご相談ください。
- ※特約の名称や補償内容は保険会社ごとに異なります。
- ※当ページでは個人賠償責任保険に関する一般的な内容を記載しています。個別の保険商品等の詳細については保険会社および取扱代理店までお問い合わせください。
(2025年1月承認)B24-201870
個人賠償責任保険についてよくある質問
個人賠償責任保険について、よく聞かれる疑問をまとめました。それぞれの質問について解説していますので、参考にしてください。
- 個人賠償責任保険とはどのような保険ですか?
- 個人賠償責任保険は、日常生活で誤って他人にケガをさせたり他人の物を壊したりして、法律上の損害賠償責任を負った際に補償が受けられる保険です。「自転車で走行中に他人にぶつかってケガをさせてしまった」「買い物中に店の商品を壊してしまった」等、日常生活における偶発的な事故で他人に損害を与え、損害賠償責任が生じた場合に補償が受けられます。
- 個人賠償責任保険は子どもも補償対象ですか?
- 個人賠償責任保険は、加入者(記名被保険者)本人だけでなく同居の家族も補償の対象になります。未婚の子どもであれば、同居していなくても補償対象となることが一般的です。子どもが誤って、他人の物を壊したり他人をケガさせたりといったように、「日常生活に起因する偶然な事故」または「住宅の所有、使用または管理に起因する偶然な事故」によって他人に損害を与え、法律上の損害賠償責任を負った場合に補償されます。
- 個人賠償責任保険に加入する方法は?
- 個人賠償責任保険に加入するには、単独の保険商品に加入する方法、火災保険等の保険の特約として加入する方法、クレジットカードの付帯保険として加入する方法があります。単独の保険商品はほとんどなく、他の保険の特約として契約することが一般的です。知らず知らずのうちに重複して加入しているケースが多い保険であることから、新規で加入を検討する際は、自分や家族が加入している保険の補償内容を確認することが重要です。
- 個人賠償責任保険の「示談交渉サービス」とは何ですか?
- 「示談交渉サービス」とは、事故等で法律上の損害賠償責任が発生した時に、保険会社が本人に代わって相手と交渉してくれるサービスのことです。示談交渉サービスは、すべての個人賠償責任保険についているわけではなく、利用できる条件も保険会社によって異なるため、あらかじめ示談交渉サービスの有無や利用条件を確認しておく必要があります。
監修者プロフィール
原 絢子
日本FP協会 AFP認定者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
自分で保険の見直しを行ったのをきっかけに、お金の知識を身につけることの大切さを実感し、ファイナンシャルプランナーとして活動を始める。モットーは「自分のお金を他人任せにしない」。一人でも多くの人がお金を味方につけて、自分の思い描く人生を歩んでほしいと、マネーリテラシーの重要性を精力的に発信している。FPサテライト株式会社所属FP。
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