帝王切開は保険適用になる?かかる費用と民間医療保険加入の必要性
近年、帝王切開で出産する割合は増加傾向にあります。帝王切開での出産の場合、公的医療保険は適用されるのでしょうか。
ここでは、帝王切開に適用される公的医療保険や、帝王切開になるリスクの他、帝王切開の費用、利用できる公的制度、民間の医療保険で受取れるお金等について解説します。
帝王切開には公的医療保険が適用される
出産は病気やケガではないため、基本的には公的医療保険は適用されませんが、帝王切開での出産は医療行為に該当するため、公的医療保険が適用されます。そのため、自己負担額は原則としてかかった費用の3割ですみます。ただし、個室や少人数の病室を希望した場合の差額ベッド代や、入院中の食事代等には、公的医療保険は適用されず、全額自己負担となります。なお、自然分娩の場合は、公的医療保険の適用外となるため、かかった費用は全額自己負担となります。民間の医療保険についても、自然分娩は保障の対象外です。
帝王切開になるリスク
近年、帝王切開で出産する割合は増加傾向にあります。厚生労働省の調査によると、一般病院での分娩全体に占める帝王切開の割合は、2008年の23.3%から、2020年では27.4%まで増加しており、2020年時点では4件に1件以上が帝王切開で生まれている計算となります。
※出典:厚生労働省「令和2(2020)年 医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況」P.20
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/20/dl/09gaikyo02.pdf
帝王切開は、自然分娩を行うのに危険が伴う場合に、母体と子どもを守るために行われる手術です。医師が帝王切開を選択する際は必ず医療上の理由があり、単に出産が楽になるといった理由で行われることはありません。また、帝王切開は事前に予定するかどうかで種類が分けられ、あらかじめ日程を決めて実施する予定帝王切開と、出産中に医師の判断によって行う緊急帝王切開の2種類があります。
予定帝王切開は分娩前にリスクが大きいことがわかっている場合に、手術日を決めて帝王切開を行う手術です。例えば、逆子や前置胎盤、前回の出産が帝王切開の場合等に行われます。一方、緊急帝王切開は、出産が始まってから、母体や胎児の状況によって医師が帝王切開の必要があると判断した場合に行う手術です。胎児の心拍異常がある場合や、母体の状況が悪化した場合等に実施されます。
帝王切開にかかる費用
帝王切開は公的医療保険が適用されますが、すべての費用が公的医療保険の対象となるわけではありません。ここでは、帝王切開にかかる費用について解説します。
手術費用
帝王切開にかかる費用として、帝王切開の手術費用が挙げられます。手術費用はどこの病院でも同じで、2022年の診療報酬点数から計算すると、予定帝王切開は20万1,400円、緊急帝王切開は22万2,000円です。これには公的医療保険が適用されるので、自己負担額は約6~7万円となります。
検査費、処置費、薬剤費、入院費
検査費や処置費、薬剤費、入院費も帝王切開での出産にかかる費用です。出産後に母体に異常があった場合の検査費や処置費、薬剤費と入院費は、公的医療保険が適用されるため、3割負担です。ただし、一般的に帝王切開のほうが自然分娩より入院は長くなります。厚生労働省の調査によると、自然分娩の場合の入院日数は平均6日ほどですが、帝王切開等の場合は10日程度となっており、帝王切開は入院が長引く分、3割負担であっても各種費用が膨らむ可能性もあります。
※出典:厚生労働省「令和2年(2020)患者調査(確定数)の概況」P.30
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/20/dl/kanjya.pdf
新生児管理保育料や食事代等
帝王切開には、新生児管理保育料や入院中の食事代等もかかります。これらは公的医療保険の適用対象にならないため、全額自己負担となります。さらに、個室や少人数の病室を希望した場合に必要となる差額ベッド代も公的医療保険は適用されません。なお、厚生労働省の調査によると、2020年の帝王切開を含む異常分娩(正常分娩以外での出産)の妊婦負担額の平均は、50万円弱となっています。
※出典:厚生労働省「出産費用の実態把握に関する調査研究(令和3年度)の結果等について」P.4
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000977521.pdf
民間の医療保険に加入するタイミング
帝王切開は公的医療保険の対象となるものの、自己負担額がゼロになるわけではありません。帝王切開を給付対象とする民間医療保険に加入しておけば、かかる費用をカバーすることができますが、加入するタイミングには注意が必要です。妊娠後だと、妊娠週数によっては加入できなかったり、加入できても条件付きになったりする可能性があります。加入を考えているのであれば、できるだけ早い時期に検討しましょう。
出産時に利用できる公的制度
出産に関する費用は基本的に自己負担となりますが、自己負担を軽減できる公的制度があります。なお、受給や利用に関して細かな規定が定められている場合もあるので、利用時は事前に確認が必要です。ここでは、出産時に利用できる公的制度について解説します。
出産育児一時金
出産時に利用できる公的制度として、出産育児一時金が挙げられます。出産育児一時金は、公的医療保険から支給される給付金です。2023年4月から子ども1人につき50万円(産科医療補償制度の対象外の場合は48.8万円)に引き上げられました。
出産にかかる費用に出産育児一時金をあてることができるよう、出産育児一時金は公的医療保険から医療機関に直接支払われる「直接支払制度」によって支給されることが一般的です。この場合、実際にかかった出産費用が出産育児一時金の金額を超えれば、その差額は自費となります。
出産手当金
出産手当金も、出産時に利用できる公的制度のひとつです。出産手当金は、産休中の女性の生活保障を目的とした制度で、勤務先で健康保険に加入している人が対象です。出産日(出産が予定日より後になった場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産の翌日以後56日目までのうち、実際に会社を休み、給与の支払いを受けなかった期間について、出産手当金が受取れます。出産手当金の額は、給与の約3分の2です。
なお、国民健康保険には出産手当金の制度はありません。そのため、勤務先の健康保険に加入していないパートやアルバイト、自営業、個人事業主の場合は、出産で仕事を休んでも出産手当金の支給対象外です。また、出産手当金は被保険者本人に対して支給されるものなので、健康保険の被扶養者は対象外となります。
高額療養費制度
高額療養費制度も、出産時に利用できる公的制度といえるでしょう。高額療養費制度は、1か月にかかった医療費の自己負担額が、一定の限度額を超えた場合に払戻される制度です。限度額は年齢や所得によって異なります。高額療養費制度の対象になるのは、帝王切開や切迫早産等の医療行為にかかる費用です。正常分娩の費用には適用されません。
高額療養費制度については、以下の記事をご覧ください。
高額療養費制度とは?医療費の自己負担限度額等をわかりやすく解説
医療費控除
医療費控除も、出産時に利用できる公的制度です。医療費控除は、1年間の医療費が世帯合計で10万円(または所得の5%)以上の場合に受けられる所得控除です。医療費控除を受けるには確定申告が必要で、確定申告をすることで所得税や住民税の納税額を減らすことができます。
自然分娩でも帝王切開でも、出産費用や通院にかかった交通費等は、医療費控除の対象となります。また、妊婦検診の費用や入院中の食事代等も含めることが可能です。ただし、出産育児一時金や高額療養費、民間の医療保険から支給される入院給付金等を差し引いて計算しなければなりません。
帝王切開で出産した際に民間の医療保険で受取れるお金
妊娠前に帝王切開が保障対象となる医療保険に加入している場合は、帝王切開になった場合に給付金を受取れる可能性があります。ここでは、帝王切開で出産した際に受取れる民間の医療保険の給付金について解説します。
出産の際に適用される保険ついては、以下の記事をご覧ください。
出産費用に保険は適用される?利用できる公的制度についても解説
入院給付金
帝王切開で出産した際には、入院給付金を受取ることが可能です。入院給付金は、治療のために入院した場合に受取れる給付金で、1日あたり5,000円や1万円等、契約時に決めた金額が入院日数に応じて受取れます。
手術給付金
帝王切開で出産した際は、手術給付金も受取ることができます。手術給付金は、保障内容に定められた手術をした場合に受取れる給付金です。金額は、保険商品によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
予想外の妊娠や帝王切開の費用に備えるためには、妊娠前に医療保険を検討しよう
2020年時点で、帝王切開での出産は全体の4件に1件となっており、珍しいことではありません。また妊娠・出産に関しては、帝王切開以外にも、妊娠中の妊娠高血圧症候群や切迫早産等、さまざまなリスクがあります。帝王切開の手術代には公的医療保険が適用されますが、自己負担分や公的医療保険が適用されない費用もあります。妊娠・出産の費用負担が心配な場合は、妊娠前に医療保険に加入しておくのがおすすめです。
「ほけんの窓口」では帝王切開に備えるための保険や、出産時に利用できる公的制度に関する質問等が、何度でも無料で相談できます。自分に適した医療保険を検討したい場合は、ぜひ「ほけんの窓口」へご相談ください。
監修者プロフィール
原 絢子
日本FP協会 AFP認定者、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
自分で保険の見直しを行ったのをきっかけに、お金の知識を身につけることの大切さを実感し、ファイナンシャルプランナーとして活動を始める。モットーは「自分のお金を他人任せにしない」。一人でも多くの人がお金を味方につけて、自分の思い描く人生を歩んでほしいと、マネーリテラシーの重要性を精力的に発信している。FPサテライト株式会社所属FP。