【退職所得について】退職所得の計算方法と納税手続き
退職所得とは?
退職所得とは、退職により勤務先から受ける退職手当などの所得をいい、社会保険制度などにより退職に基因して支給される一時金、適格退職年金契約に基づいて生命保険会社または信託会社から受ける退職一時金なども退職所得とみなされます。
また、労働基準法第20条の規定により支払われる解雇予告手当や賃金の支払の確保等に関する法律第7条の規定により退職した労働者が弁済を受ける未払賃金も退職所得に該当します。
退職金にかかる税金は、長年の功労に対する報償的給与として一時に支払われるものであることなどから、税制面において優遇されています。
税率の差は?
「役員退職慰労金を2,000万円支給した場合」と「役員報酬を2,000万円増額した場合」の手取額の違いは?
前提条件として、給与所得以外に収入なし。勤続30年、役員報酬1,000万円。所得控除は基礎控除のみとし、所得金額調整控除の適用なし。配偶者控除・配偶者特別控除・社会保険料控除等についても考慮せずに計算した場合で、所得税の源泉徴収の対象、退職所得の受給に関する申告書を提出、前年以前に退職金を受け取っていなく、かつ、同一年中に2か所以上から退職金を受け取っていないこととする。
算出根拠
勤続年数30年の社長が2,000万円を役員退職慰労金として受け取った場合
勤続年数30年 役員退職慰労金 2,000万円の場合 |
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退職所得控除 | 15,000,000円 |
退職所得(2分の1課税) | 2,500,000円 |
所得税及び復興特別所得税 | 155,702円 |
住民税(市民税) | 150,000円 |
住民税(県民税) | 100,000円 |
税額合計 | 405,702円 |
手取額 | 19,594,298円 |
【退職所得】
2,000万円-{800万円+70万円×(30年-20年)}×1/2=250万円
【所得税】退職所得の源泉徴収税額の速算表による計算
税額=(250万円×10%-97,500円)×102.1%=155,702円(円未満切り捨て)
【住民税】
市町村民税(特別区民税)=250万円×6%=15万円
道府県民税(都民税)=250万円×4%=10万円
合計=25万円
【税金合計】
所得税及び復興特別所得税+住民税=405,702円
【手取額】
2,000万円-405,702円=19,594,298円
その結果、2,000万円の役員退職慰労金を受け取った場合、税金は約40万円で実効税率は約2%になります。
年収1,000万円の社長が役員報酬を2,000万円増額した場合
2,000万円の収入が上乗せされた形で課税となり、詳細は以下の通りです。
年収1,000万円の場合 | 年収3,000万円の場合 | 差額 | |
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収入 | 10,000,000円 | 30,000,000円 | 20,000,000円 |
給与所得控除 | 1,950,000円 | 1,950,000円 | 0円 |
基礎控除(所得税) | 480,000円 | 0円 | -480,000円 |
基礎控除(住民税) | 430,000円 | 0円 | -430,000円 |
所得税及び 復興特別所得税 |
1,128,300円 | 8,600,900円 | 7,472,600円 |
住民税(市民税) | 457,200円 | 1,683,000円 | 1,225,800円 |
住民税(県民税) | 304,800円 | 1,122,000円 | 817,200円 |
税額合計 | 1,890,300円 | 11,405,900円 | 9,515,600円 |
手取額 | 8,109,700円 | 18,594,100円 | 10,484,400円 |
【所得税及び復興特別所得税】
※合計額の100円未満を切り捨てた額が国税の納付額です。
所得税 所得税速算表による計算
①年収1,000万円の場合
(1,000万円-195万円-48万円)×23%-636,000円=1,105,100円
②年収3,000万円の場合
(3,000万円-195万円)×40%-2,796,000円=8,424,000円
復興特別所得税
①年収1,000万円の場合
所得税額 1,105,100円×2.1%=23,207円
②年収3,000万円の場合
所得税額 8,424,000円×2.1%=176,904円
【住民税】
※住民税については、「所得割」のみで「均等割」「調整控除」を考慮せずに計算
①年収1,000万円の場合
市町村民税=(1,000万円-195万円-43万円)×6%=457,200円
都道府県民税=(1,000万円-195万円-43万円)×4%=304,800円
合計=762,000円
②年収3,000万円の場合
市町村民税=(3,000万円-195万円)×6%=1,683,000円
都道府県民税=(3,000万円-195万円)×4%=1,122,000円
合計=2,805,000円
【税金合計】
①年収1,000万円の場合
所得税+復興特別所得税+住民税=1,105,100円+23,200円+762,000円
=1,890,300円
②年収3,000万円の場合
所得税+復興特別所得税+住民税=8,424,000円+176,900円+2,805,000円
=11,405,900円
【手取額】
①年収1,000万円の場合
年収-税金=1,000万円-1,890,300円=8,109,700円
②年収3,000万円の場合
年収-税金=3,000万円-11,405,900円=18,594,100円
社長の年収を1,000万円から3,000万円に増額した場合、所得税や住民税の支払いも増えるので、役員報酬を2,000万円増額したにもかかわらず、実際の手取増加額は約1,048万円。
増額した2,000万円に対する実効税率は約47.6%になります。
所得税額速算表
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
退職金にかかる税金は税制上優遇されています。
退職金に対する3つの優遇措置
- ①退職所得控除
- 勤続年数に応じた金額が控除されます。
- ②2分の1課税
- 退職所得控除後の金額の2分の1が課税対象になります。
- ③分離課税
- 退職所得は原則として、他の所得と切り離して計算します。
退職所得控除額計算
(「退職所得の受給に関する申請書」を提出した場合、原則確定申告不要)
勤続年数 | 控除額 |
---|---|
2年以下 | 一律80万円 |
2年超20年以下 | 勤続年数×40万円 |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
- ※障がい者になったことが直接の原因で退職された場合には、上記で計算した金額+100万円となります。
- ※勤続年数1年未満の端数がある場合には、1年に切り上げます。(所得税法施行令第69条第2項)
- ※前年以前に退職金を受け取ったことがあるとき、または同一年中に2か所から退職金を受け取るときなどは控除額の計算が異なる場合があります。
ただし、役員等勤続年数が5年以下である人(特定役員)が支払を受ける退職手当等のうち、その役員等勤続年数に対応する退職手当等として支払いを受けるものについては、平成25年分以後は退職金の額から退職所得控除額を差し引いた残額が退職所得の金額になります(上記計算式の2分の1計算の適用はありません)。
「役員等勤続年数」とは、退職手当等に係る勤続期間のうち、役員等として勤務した期間の年数(1年未満の端数がある場合はその端数を1年に切り上げたもの)をいいます。
「役員等」とは次のイ~ハに掲げる人をいいます。
- イ 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人や法人の経営に従事している者で一定の者
- ロ 国会議員や地方公共団体の議会の議員
- ハ 国家公務員や地方公務員
下表に示された金額までの退職金は非課税(所得税・住民税)です。
勤続年数 | 15年 | 20年 | 25年 | 30年 | 35年 | 40年 | 45年 | 50年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
退職所得 控除額 |
600万円 | 800万円 | 1,150万円 | 1,500万円 | 1,850万円 | 2,200万円 | 2,550万円 | 2,900万円 |
役員退職慰労金を支払う際に注意する点は?
役員退職慰労金支払いには多額の資金が必要です⇒退職金は適正額までは全額損金となります。
計画的に十分な準備が必要!
役員退職慰労金を支払って赤字にならぬよう・・・
役員退職慰労金を支払って赤字になってしまう可能性はありませんか?
その時にある現預金を使ってしまうと・・・
借入金返済など、役員退職慰労金を支払った後の会社の資金繰りは大丈夫ですか?
万が一の場合の緊急資金は準備できていますか?
資金繰りに支障をきたさぬよう、計画的に十分な準備が必要です。
役員退職慰労金の適正額とは?
役員退職慰労金の一般的な計算式は
最終報酬月額×役員在職年数×功績倍率※=適正役員退職慰労金金額
- ※功績倍率は2.0~3.0倍程度が妥当と言われています。その根拠は判例における「社長3.0、専務2.4、常務2.2、平取締役1.8、監査役1.6」(S56.11.18 東京高裁)等の数字です。
①現時点での適正な役員退職慰労金の金額を計算
②勇退時点での適正な役員退職慰労金の金額を計算
役員退職慰労金規程の準備はされていますか?
税務上のトラブル回避や役員退職慰労金が確実に支払われるためにも、役員退職慰労金規程の準備が必要です。
死亡退職金支払い時には、本人が生存しておりませんので、書面にて役員退職慰労金規程を整備して支払基準等を明確にしておくことが重要です。
役員退職慰労金規程制定の流れは?
- ※役員退職慰労金規程については、労働基準監督署や国税庁などへの届出は不要です。
納税手続きは?
前述の通り、退職所得は他の所得とは分けられて課税されます(分離課税)。
会社を退職した時に退職金を支給された場合には、通常は退職する前に「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出します。
支払時に「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合は、退職金の支払者が退職所得金額に応じて事前に所得税と復興特別所得税、住民税を計算して源泉徴収してくれるので、確定申告など特別な対応は必要ありません。
しかしながら、「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかった場合は、退職金の額に対して20.42%の所得税と復興特別所得税、住民税10%が源泉徴収されますので、確定申告を行うことにより、所得税と復興特別所得税、住民税の額を確定させて精算する必要があります。
- ※平成25年1月1日から令和19年12月31日までの間に支払いを受ける退職手当等については、所得税とともに復興特別所得税が源泉徴収されます。
(所法30、31、120~122、199、201~203、所令72、措法29の4、平24改正法附則51、所基通30-3、30-5、復興財確法28)
つまり、「退職所得の受給に関する申告書」を提出して退職所得控除の適用を受けた場合には、一般的には税額が軽減されることになりますので、確定申告の必要のない方は「退職所得の受給に関する申告書」を提出された方がよいでしょう。
まとめ
退職金については、受取時のさまざまな優遇税制等があるため、特に役員については役員報酬を増額する場合と比べるとかなり有利になります。
しかしながら、金額はかなりの高額になることから、計画的な資金準備や規程制定など事前の準備がとても重要になります。
中でも、資金準備については生命保険を有効活用することで、勇退退職金と死亡退職金を同時に準備することができますので、早めに相談や検討をされてみてはいかがでしょうか。
当資料に記載の税務の取扱いについて
2022年6月現在の税制・法律に基づき、税務の取扱い等について記載しており、資料内の税額計算はあくまで参考数値です。また、今後税務取扱い等が変わる場合もございますので、記載の内容・数値等は将来にわたって保障されるものではありません。税務に関する個別のご相談やお問い合わせは、必ず所轄の税務署や顧問税理士等にご確認ください。
参考:国税庁ホームページ
監修:朝日税理士法人
公開日:2022年10月11日