経営事項審査のための「法定外労働災害補償制度」に関する留意点
1.経営事項審査とは
国、地方公共団体等が発注する公共工事を直接請け負おうとする場合には、建設業者が必ず受けておかなくてはならない審査制度です。(建設業法第27条の23)
国、地方公共団体は、競争入札に参加しようとする建設業者について資格審査を行うこととされており、「客観的事項」と「発注者評価」の審査結果を点数化(総合点数)し、格付けを行います。このうち「客観的事項」にあたるものが経営事項審査です。
民間企業でも新規取引の際に相手方の信用調査の一環として活用している会社があるようです。
- 参考
- 経営規模等評価申請・総合評定値請求の手引き(経営事項審査)
令和3年4月改正対応版(令和4年4月更新)国⼟交通省関東地方整備局建政部建設産業第一課
評価の項目は大きく分けて以下の5項目です。
- (※1) 経営規模等評価の申請と総合評定値の請求を同時に行う場合は、あらかじめ、経営状況分析を受け、この結果通知書を取得する必要があります。
- (※2) 総合評定値を請求する場合は経営状況分析通知書(原本)の提出が必要です。
- (※3) 国土交通省HPリンク
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000091.html?msdkid=58351d22c44811eca94278 - (※4) 国土交通省HPリンク
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000088.html
総合評定値(P)は、次の算式により算出します。
総合評定値(P)=0.20(Y)+0.25(X1)+0.15(X2)+0.25(Z)+0.15(W)
最高点は2,157点、最低点は-18点です。(平均点は700点前後とされています。)
公共工事入札参加希望者選定手続きの透明性の一層の向上による公正さの確保、企業情報の開示や相互監視による虚偽申請の抑止力の活用といった観点から、経営事項審査結果は、公表されています。国土交通省、都道府県から委託を受けた一般財団法人建設業情報管理センターのホームページ上から閲覧可能(結果通知書発行日から約30日後)です。
(リンク:経営事項審査結果の公表|CIIC 一般財団法人 建設業情報管理センター)
2.法定外労働災害補償制度とは
法定外労働災害補償制度とは、建設現場等での労働災害の発生に対して、国の行う(法定の)労働者災害補償保険(以下「労災保険」)(※1)に上乗せして労災補償を手厚くするものです。
労災保険に加えて、企業が費用を負担して任意で法定外労働災害補償制度に加入します。労災保険を自動車の自賠責保険に例えるなら、法定外労働災害補償制度は、任意の自動車保険(共済)に相当します。
後記3.に詳しく記載しますが、一定の条件を満たして法定外労働災害補償制度に加入すると、経営事項審査の総合評定値(P)に加点されます。
具体的には、「その他の審査項目(W)」の「労働福祉の状況(W1)」の1つとして、150点(×190/200の調整あり)が加点され、総合評定値(P)換算(×0.15)後は21点の加点となります。
- (※1) 金融庁 公的保険ポータルから労災保険をご参照ください。
(公的保険ポータル:金融庁(fsa.go.jp))
3.法定外労働災害補償制度が経営事項審査で加点されるための条件
①対象となる補償契約先
経営事項審査で加点されるには、以下の団体等と法定外労働災害補償制度を契約する必要があります。
- ア.中小企業等協同組合法(昭和24年法律第181号)に基づき共済事業を営む者(全日本火災共済協同組合連合会等)
- イ.公益財団法人建設業福祉共済団
- ウ.一般社団法人全国建設業労災互助会
- エ.一般社団法人全国労働保険事務組合連合会
(平成17年改正保険業法附則第2条第1項に
基づき共済事業を営む者)
- オ.民間の損害保険会社(保険業法第3条の規定に基づく免許を受けて保険業を営む者)
②対象となる6つの条件
経営事項審査で加点されるには、以下の条件を満たす必要があります。申請時に以下の(ア.を除く)条件を満たしていることがわかる加入証明書、保険証券等を確認書類として添付します。
- ア.労災保険に加入していること
- イ.業務災害と通勤災害(出退勤とも)のいずれも対象であること
- ウ.死亡及び労働災害補償保険の障害等級第1級から第7級までを補償していること
- エ.直接の使用関係にある職員及び下請負人(数次の請負による場合にあっては下請負人のすべて)の直接の使用関係にある職員のすべてを対象としていること
- オ.施工するすべての工事(共同企業体及び海外工事は除く)を補償していること
- カ.審査基準日を含む月が保険期間(補償期間)となっているもの
4.労務リスクと対策
近年以下の要因から、事業主が解雇・ハラスメント等を巡って訴えられる労務トラブルが増加傾向にあります。※1
- 「働き方改革」等労働関連の法律改正が続き、労働者保護意識が拡大
- 1999 年以降の司法制度改革の影響により、弁護士数が増加し相談しやすい状況
(2000年約17,000人から2020年約42,000人に増加※2) - 労働審判制度(※3)の導入(2006年)により、労働関係の手続件数が増加
(2007年約3,800件から2020年約7,800件に増加※1) - インターネット等で企業の訴え方等の情報が簡単に調べられる
法定外労働災害補償制度の加入を民間の損害保険会社で検討(見直し)されるのであれば、労務トラブルに対しても対応可能な、雇用慣行賠償責任補償特約と使用者賠償責任補償特約を一緒に検討してみてはいかがでしょうか。
パワハラによる損害賠償請求例
メーカーの社員だった男性が自殺したのは上司のパワーハラスメントが原因だとして、男性の両親が会社に約1億円の損害賠償を求めた。
男性が顧客の苦情対応の担当になってから、上司から男性の指導力不足などを理由にした暴言、罵声を浴びせられ続けていた。
男性はうつ病を発症、約1年後に川でおぼれて亡くなっているのが発見された。その翌年に労働基準監督署が労災と認定した。
男性の両親は、「上司の言動は指導の範囲を逸脱していた」として提訴し、最終的にメーカーが和解金約6,000万円を支払うことで決着した。
- ※1:厚生労働省報道資料:民事訴訟と労働審判の比較より
(https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000786604.pdf) - ※2:日本弁護士連合会HP基礎的な統計情報(2020年)弁護士等の実勢より
(日本弁護士連合会:基礎的な統計情報(2020年)(nichibenren.or.jp)) - ※3:解雇や給料の不払等、個々の労働者と事業主との間の労働関係のトラブルを、その実情に即し、迅速、適正かつ実効的に解決するための手続です。最高裁判所HPより
(労働審判手続|裁判所 (courts.go.jp))
上記は概要を説明したものです。ご契約にあたっては必ず各種保険のパンフレットおよび「重要事項のご説明」をあわせてご覧ください。また、詳しくは「ご契約のしおり(普通保険約款・特約)」をご用意していますので、取扱代理店までご請求ください。ご不明な点につきましては、取扱代理店にお問い合わせください。
公開日:2022年9月13日